UTOPIA


TRAVELING REPORT / 01

 

マテ茶を探す旅

アルゼンチン/ミシオネス州

 

その8:「上手くいくこともあれば、いかないこともある」

 

「ついでだから、もう一軒寄り道しましょう。」
すでに日が暮れたマテ茶畑の帰り、小川さんに連れてきていただいたのは、近くに住む荒木さんのお宅だった。
すでに夜だったが、荒木さん夫妻は「まさかこんなところに日本人の方が来られるなんて!」と私たちを歓迎して下さった。

「こんな物しかありませんが、日本ではきっとありふれてるとは思いますが…よかったら食べてくださいね。」と出していただいたのは緑茶と海苔巻きのあられだった。
確かに日本ではどこのスーパーでも売っている物だ。けれど地球の裏側で食べるいつもの海苔巻きあられの素朴な味は格別に美味しい。聞いてみると、アルゼンチンでは手に入らないため、パラグアイまで買いに行ってるということだった。
そんな貴重な物を出して歓迎して下さる様子に胸が熱くなる。

ここまで来た経緯を話し、マテ茶を日本に輸入したいと伝えると、「日本の方はマテ茶についてまだほとんどご存知ないでしょう。でも私たちも大好きなマテ茶を日本で広めて下さるなんて、私たち日系移民みんなで応援しておりますからね。」と嬉しい言葉をいただいた。
ポチと名付けられた犬が尻尾を降って私の膝に顎を乗せてくる。
ポチまで歓迎してくれているようで嬉しい。

旦那さんが私の手元のマテ茶を指差し、スペイン語で奥さんに何か話かける。

「まぁ!主人がそのマテ茶、娘の友達が作っているマテ茶だって言うんです!」

私の手元にあったマテ茶というのは、私たちがベスト3に入れていたマテ茶のひとつだった。
ここに来て、思いもよらぬ有力情報が!!!
「今、娘は街の動物病院で働いています。この時間であればまだ病院にいるはず。行って連絡先を聞けば、今からでもそのマテ茶農家に会えるかもしれない!」

急いで小川さんが車を出してくれ、動物病院へ。
出てきたかわいい娘さんが連絡を取ってくれたのだが、さすがに今日はもう遅いので、翌日にしてほしいとのこと。

翌日朝8時にお伺いすることになり、小川さんの車で宿まで送ってもらった。
「今日は疲れたでしょう。ゆっくり宿で休んでください。明日は朝の7時半に僕の家に来て下さい。一緒にアポイントの場所まで行きましょう。」
小川さんと別れ、宿に入る。

今日は一体何人の人に助けられたんだろう。みんながまるで自分の事のように真剣に考えてくれ、次に繋いでくれた。
誰一人として、適当にあしらうような人はいなかった。
感謝と感激でいっぱいだった。

この時泊まっていたのは、ジャングルみたいな森の中のコテージだった。そこがまだ駅から近くて安かったのだ。
夜のジャングルの中、飛んでいる大きな虫を見ながら今日出会った人々の顔を思い浮かべる。
旅に出る前はこんなジャングルの中で感激に浸っているなんて誰が想像しただろうか。

旅というのは思いがけない出会いの連続だ。

これだから旅は止められない。


水曜日。
翌朝、小川さん宅で朝ごはんをいただき、念願のマテ茶農家へ。
けれど幾度呼び鈴を鳴らしても人は出てこない。
「残念だけど、アルゼンチンの人はこんな感じです。きっと寝坊しちゃったか、何か用事ができてすでに家を出ているかですね。
こればっかりは仕方ないですね。」
小川さんに慰められ、ポサーダスへ行くバス停まで送ってもらう。

やはり何事もすべて上手くいくわけがない。上手くいくこともあればいかないこともある。これはドラマじゃないんだから、実際はそんな感じなのだ。
またもやここで落ち込まされたが、午後からのアポイントではデイブの紹介のもと、無事マテ茶農家と契約することができた。

夜はデイブがこの前の夕食のお礼に、と街中のレストランでご馳走してくれた。夕食の後は街の広場で3人でワインを飲む。
マテ茶の不思議な魅力について、NYで徐々にブームになりつつあること、マテ茶を売るための大切な秘訣。
そんなことをデイブは今回も惜しげもなく、いろいろ教えてくれた。

「どうしてそこまでしてくれるの?」と尋ねると、「人は感謝の連鎖の円で繋がっているんだ。それは人間関係においてもビジネスにおいても一緒だと思う。自分だけが得をするというのは一定期間は儲けられるかもしれない。だけどそれはほんの一瞬で、感謝の連鎖による効力に比べるとものすごく小さい。僕に感謝をしてくれた人は僕のことを信頼してくれる。最初はその輪は小さいものかもしれない。けれど、その人たちが周りに伝えてくれることによって、その輪はどんどん大きくなる。その中から得ることが出来たお金を僕は感謝して受け取り、それで僕はよりもっとみんなに感謝されるようなことは何かを考える。それぞれが感謝で繋がればそんなに強い絆はない。だから君たちも僕に義理を感じる必要はない。これは僕のためにやってることなんだから。」

やっぱりこの人は神様だ。

 
木曜日。
朝のバスで再びオベラへ。バスが遅れたため、小川さんは店を出てバス停まで来てくれていた。
小川さんの車で再び帰山さんのお宅へ。
私たちのために何度も送り迎えをしてくれる小川さんには感謝が尽きない。
今日は帰山さんが他のオーガニックのマテ茶農家を紹介してくれる予定だ。
ただし、味が私たち好みとは限らない。
そのマテ茶を仕入れるかどうかは分からないが、これだけたくさんの人が協力してくれたんだ。
結果がどうであれ、成果とかそんなことはもう、どうでも良いことのように思えていた。
それ以上に、私たちはすでにたくさんの思いを受け取っていた。
そっちの方がよっぽど大切で、かけがえのない一生の宝物だと思った。



その9「マテ茶のすべてを知る」に続く

 

[マテ茶探しの旅]

記事一覧

その1:「マテ茶との出会い」
その2:「アルゼンチン・ブエノスアイレスへ」
その3:「ポサーダスの夕暮れ」
その4:「"マテ茶"をたずねて三千里と絶望」
その5:「マテ茶の神、降臨」
その6:「オベラで再び途方に暮れる」
その7:「まさかの出会い」
その8:「上手くいくこともあれば、いかないこともある」
その9:「マテ茶のすべてを知る」
その10:「最後に」